テクノロジーは貧困を救わない

Author

gentam

Date
2017-09-14
Category

booknote

Tag

technology, social-issue, education, poverty

外山健太郎による「テクノロジーは貧困を救わない」の読書メモ. 事例を中心に後で見返せるようにメモしたので,要点だけを知りたい場合にはおすすめではないかも.


Title

テクノロジーは貧困を救わない

Author

Kentaro Toyama

Translator

松本裕

URL

https://geekheresy.org

Read

2017-05-23

Contents

Summary

あらゆる社会問題への解決策としてテクノロジーを過度に評価するのは間違いであり, 本質的な問題から人々の目をそらしている. テクノロジーやお金といった,「ツール」は人間の能力や社会的な力を増幅させるに 他ならず,本質的な問題は常に人間そのものにある.すなわち解決するためには, 人間としての内面的な成長を社会全体で達成することが必要であり,それには,地道な メンタリングのような活動が必要である.

Note

日本語の題名は「テクノロジーは貧困を救わない」となっているが,オリジナルのタイトルは "Geek Heresy: Rescuing Social Change from the cult of Technology" であり,本の中ではテクノロジーと貧困に限らず,あらゆる社会的問題に対するアプローチとしての,「テクノロジー至上主義的な考え」を批判している.


ビジネスで用いられるどのようなテクノロジーにも当てはまる第一の法則は, 効率の良い業務を自動化すれば,効率がさらに良くなるということだ.
第二の法則は,効率の悪い業務を自動化すれば,さらに効率が悪くなるということだ.

—「ビル・ゲイツ 未来を語る」

テクノロジーというのは,すでに存在する特徴を増幅するものでしかない. → 良いものはさらに良くなるが,悪いものはさらに悪くさせる

社会的な課題に対する,外部からの働きかけの多くは"介入パッケージ"であり,ほとんどは何も効果をもたらさない.

実際に行うのは,人間であるかぎり,誰がそれを行うのかという部分, そして,その人がどれだけ

を持っているかという部分が重要である.そして,その難しい部分に働きかける地道な取り組みこそが重要である.

TEDxTokyo - Kentaro Toyama - 05/15/10

筆者のプロフィール

Kentaro Toyama

第1部

1. どのパソコンも見捨てない: 教育テクノロジーの矛盾する結果

事例: マルチポイント

インドの小学校で子供が触れるパソコンが足りておらず,大勢で群がっているが2人以上が同時につかうことはできない.という問題を解決するために筆者は一台のパソコンに複数のマウスをつなげ,それぞれがカーソルを動かせる仕組みと,専用の教育ソフトを作った.

事例: OLPC (One Laptop Per Child) プロジェクト

$100の安価で丈夫なコンピュータを開発し,途上国の子供たちの教育を支援しようとした.

→ こうしたプロジェクトは実地試験では成功を収めたため,効果があると思われた.しかし,実際に他校へと大規模に展開した際にはほとんどが失敗に終わった.

それは,実験を受け入れてくれていたような学校は,教育に熱心で優秀な学長や教師がいる場所だったからであり,そうでない,そしてもっとも改善が必要とされているような学校ではそういった機材は導入されてすぐに使われなくなった.

..."変化をもたらしたとすれば,テクノロジーそれ自体が持ってきた問題で状況を悪化させただけだった"

筆者はその後も,10以上の教育向けテクノロジー関連プロジェクトを監督したが,最終的な結論は同じで,テクノロジーはすぐれた教師や優秀な学長の不在を補うことはできない,というものだった.

事例: テレビが普及したとき,人々はテレビを通じたビデオ講義によって,教育業界に革命が起こるだろうと熱狂した.→ 実際には起こらなかった. そして,同じことがインターネット上の教育にもいえる.

Note

以前ネットで読んだ記事で,MOOCなどの無料で大学の講義を受けられるというサービスの実際のユーザの統計を取ると,ほとんどがすでに裕福で高学歴な人間だったという話があった.これだと貧困などから高等教育へのアクセスを持たなかった人たちに機会を届けるといった目的には貢献していないという話しに近いものがある気がする.

事例: Hole in the wall

ニューデリーのスラム街の壁にパソコンを埋め込んだプロジェクト.誰も指導していないのに,子供たちが自発的にパソコンの使い方を覚えた.→ 「最小介入教育」を提唱.TEDアワードを受賞. しかし,現場を訪れるとパソコンは使われていないか,壊れているか,年長の男子がゲームをしているかだけだった.

→ 「子供は放っておいても自己学習する」というアイディアは魅力的だが非現実的な考え方.

「要するに,学校制度の品質はそこにいる教師の質よりは良くならず,コンピュータを含むどのような教育リソースが使えても関係ない」

—PISA分析者

→ テクノロジーへのアクセスと学習の到達度になんら影響を与えていない.

しかし,インターネットは知識へのアクセスを明らかに容易にしたし,テクノロジーを与えられた学生がそうでない学生よりも多くを学んだことを示す調査結果もたくさんある.

テクノロジーが持つこの一見矛盾した性質はどのように説明すべきなのか?

2. 増幅の法則: テクノロジーの社会的影響についてのシンプルで強力な理論

要約: テクノロジーは,既にそこにある社会的な力や使う人の能力を増幅させるものである(増幅の法則)

事例: インド バンガロールにある「ストリー・ジャングルティ・サミティ」(女性エンパワーメント協会)という非営利組織におけるボランティアで,筆者が行った十代の少女9人への週一のコンピュータ教室. → ほとんどの生徒はWordでカラフルな文字の書類を作って楽しむくらいまでしか到達できず,その後につながるようなモチベーションを持っていなかった.これは,そもそも14,5歳で結婚させられることが一般的であったり,親から花嫁持参金が高くなる(高学歴な女性ほど扶養費が高くなると思われている)からあまり賢くなってほしくない,と学校をやめさせられた子もいた... などの社会的な背景によるところが大きい.

テクノロジーに対する態度は主に以下に分けられる:

  • 夢想家

    • テクノロジーの発展が全ての問題を解決する

    • ユートピア的未来

  • 懐疑派

    • テクノロジーは破壊的影響をもたらす

    • ディストピア的未来

  • 文脈主義者

    • 「テクノロジーは,良くも悪くもない.かといって中立でもない」

    • 利用されるコンテキストに全ては依存する

=> 全員がそれぞれ正しい.しかし,根本に共通する説明があるのではないだろうか?

筆者はそれが,以下の3つの要素からなる 人的要因 だと考える (社会的決定論者?)

  1. 研究者の熱心さ (研究成果に対する熱心さではなく,具体的な社会的影響対するひたむきな情熱)

  2. パートナー組織のやる気と能力 (地元コミュニティで助けてくれるパートナーの存在)

  3. 対象となる受益者 (与えられたテクノロジーを活用しようとする欲求とそれができるだけの能力)

調査事例

  • 結論: "その人物がすでに身につけている知力と教育レベルは,簡単なパソコン操作を完了できる能力と比例する"

    • = 教育水準が高く,認識能力が高い人ほど,テクノロジーをうまく使える

  • より識字力が高い人は,インターフェイスに文字が含まれていないとしても,識字力が低い人よりもうまく使うことができる傾向を発見

  • 識字テストと抽象的推理力のテストを行った

  • 別のグループでは,もっとも野心的で自信に満ちた女性が,携帯電話をもっとも活用できていることを発見

...

→ テクノロジーから何が得られるかは,テクノロジーの有無にかかわらず,彼らがどんなことをしたいのか,できるのかによって異なる.

テクノロジーの一番の効果は人間の能力を増強することだと言える

例え話: 利益を出せていない民間企業があったとして,そこに最先端のデータセンターや,より生産性の高いソフトを全従業員に支給したところで事態が好転すると思う人はいない. → しかし,この理屈はテクノロジーで学校を良くしようという取り組みがまさに実行している

事例: 「アラブの春」と「Facebook革命」

メディアが「アラブの春」エジプトでの抗議活動について語るとき,必ずといっていいほどFacebookの功績についても語られる.しかしソーシャルメディアが民主化の重要な要因であるという主張は正しい認識ではない. 確かに,YouTubeでの動画やFacebookへの投稿がなんらかの良い影響をもたらしたことは事実だろうが,他の中東諸国での展開を見ればそれが決定的な要因ではなかったことがわかる.

  • リビアでは革命が始まって数日後に,独裁者カダフィが国内のインターネット接続や固定・携帯電話回線を遮断した.しかしその中でも反逆者たちは連携を取り,活動を続け革命に成功する

  • シリアでもインターネットや電話回線が遮断されたが,抗議活動は続いた

  • 逆に,バーレーンとサウジアラビアでは,FacebookやTwitter, YouTubeでの発信や署名運動が行われたが,現実世界での抗議運動は実現しなかった

→ チュニジアとエジプトには,市民の不満と組織的な手段がSNSより前から存在していた.Facebookによってその表現の場が増幅され,革命の速度を早めた.しかし,バーレーンとサウジアラビアでは市民社会がそもそも機能不全だった.だからいくらFacebookで団結を呼びかけても変化は起こせなかった.

インターネットはそれ単体では何も変えることができない,だが既存の力を増幅することはできる.

—フィリップ・アガー

3. 覆されたギーク神話: テクノロジーの迷信を打ち砕く

  • 一般通念に反して,デジタル化そのものは必ずしもコスト削減にはつながらない.

    • 医療での例

    • 支出を推奨するものばかりが増幅されている

    • 企業での例

    • 経営上の穴をまず塞がなければ,テクノロジーを導入しても対して役に立たない -- ホルヘ・ペレス = ルナ CTO

大きな組織になると,右手と左手は互いに相手が何をやっているかわかっていない,などということが多々ある.この自己中心的な仕事の進め方を改善するためにウェブポータルや組織内ソーシャルメディアサイトを立ち上げたくなる気持ちはわかるが,本当の問題はたいていの場合,管理の仕方の問題であったり,組織内部の政治的問題であったり,あるいは人間の集中力のなさであったりする.... 知識管理システムやオンラインの情報センターが障害であることはめったにない.... 組織内部の障害物を取り除くには,まずは効果的な人間関係を構築することだ.

思考実験: eメールだけを利用して寄付金を募る.ホームレスと自分と,ビル・ゲイツ,誰が一番お金を集めることができるだろうか?

→ ホームレス << 自分 <<<...<<< ビル・ゲイツ

利用する技術より,人間的な能力や既存の社会的なステータス,コネクションの方がはるかに重要なファクターである.

事例 中国のネット検閲

...

  • ネット上で一番自由に発言ができる場所は,現実世界でもっとも自由に発言できる場所である

  • 新しいテクノロジーがコストを削減できるときというのは,経営陣がコスト管理に注力したときである

  • 子供がiPadを使ってちゃんと学習できるようになるには,(ツールにかかわらず)子供がちゃんとした学習習慣を身につけて,大人が適切な監視をすること

4. シュリンクラップされた場当たり的処置: 介入パッケージの例としてのテクノロジー

「増幅の法則」はテクノロジーに限らずもっと広く適応することができる.

  • テクノロジーは「介入パッケージ」の極端な一例にすぎない.

  • 介入パッケージ: 社会問題に対処することを目的とした全てのテクノロジー,アイディア,政策,その他簡単に複製できる部分的な解決策を指す

事例 マイクロクレジット

  • モハマド・ユヌス グラミン銀行の成功

  • 非営利組織から営利銀行へ鞍替えした,コンパルタモス・バンコという銀行

    • マイクロクレジットはある程度の恩恵をもたらすが,貧困にとっての万能薬ではない

  • データを見ると,マイクロクレジットでも,より裕福で教育水準が高いものの方が恩恵を受けていることがわかる

    • デジタルテクノロジーと同様に,人間の既存の力を増幅させるものである

  • マイクロクレジットでは,金銭的な担保の代わりに社会的保障を提供する人々のグループにたいする融資が基本になっていて,借り手達は支え合って,ローンを返済する.

    • この手続き,仕組みが「テクノロジー」にあたる

究極の介入パッケージ: ワクチン

  • 命を救う

  • すぐに効果が表れる

  • フォローアップの必要もない

このような素晴らしい特徴を持っているのに,いまだにポリオはアフガニスタンやパキスタン,ナイジェリアでは蔓延している.ポリオのワクチンは何十年も前から存在するにも関わらず.

金銭的問題,インフラの問題もないわけではないが,主たる障壁ではない.では何が問題なのか?

→ 指導者,実施者,受益者の人間性であり,あらゆる介入パッケージに当てはまる.

受益者が希望しなければ,もちろん効果は発揮できない: 開発途上国の一部では,ワクチンの接種キャンペーンが自分たちを不妊にしようとする陰謀ではないかと疑う者が多い.

  • 指導者: リーダーであり,その介入に力を持つ者.その熱意よりも個人的欲求が上回ると成果はでなくなってしまう

  • 実施者: 介入パッケージを実施し,テクノロジーを導入,運用,維持する.

  • 受益者: 参加する意志と能力が求められる.

    • ユヌスの意見: 貧困家庭には金融資本さえあればいい.訓練プログラムのようなものは逆効果だ.

    • 筆者の意見: 実際に融資を受けているのはほとんどが経験豊富な起業家であり,貧しい人々は金融資本意外にも必要なものがあると自分たちでも気づいている.

意志と能力は無条件に引き出せるものではない.構築する必要がある場合が多いのだ

この,指導者,実施者,受益者の三位一体が介入パッケージにおいては重要だが,このもっとも重要な資質はパッケージに含めることはできない.

社会学者 ピーター・ヘンリー・ロッシの主張: 「あらゆる大規模な社会的プログラムの最終的な影響評価の期待値は0である」.(1987) = 大規模な社会的なプログラムには,平均するとなんの社会的影響もないということ

なぜ社会的プログラムは大規模になると失敗しがちなのか.ロッシの分析:

  1. プログラムの設計が悪い → リーダーシップの問題と連動している

    • 介入の理論に問題がある

    • 理論が実施される方法に問題がある

  2. 実施の失敗

    • 「パイロット症候群」: 社会的プログラムがパイロットテストではうまくいくのに,大規模展開すると失敗すること.

→ 「能力が高く,強い熱意を持った人員が小規模なプログラムを実施するのと,普通の能力も意欲もさほど高くない人員がプログラムを実施するのではわけがちがう」

人間の美徳はパッケージ化できない:

  • 優秀な教師が思いやりをもって子供に注意をむけること

  • 市民が抗議行動に参加すること

  • しっかりと運営されている医療システムが実施する,すぐれたワクチンプログラム

  • 利益団体からの圧力に負けずに正しいことをしようという政治指導者の決断

  • etc ...

テクノロジーは暮らしを豊かにすることができる.しかし,「できる」は必ずしも「する」と同義ではない.

5. テクノロジー信仰正統派: 現代の善行について蔓延するバイアス

事例: セヴァ・マンディールのカメラ監視プログラム

  • インド ラジャスタン州 コートラの学校での実験

  • NPO セヴァ・マンディールが運営

    • 調査チームのリーダーは,エスター・デュフロ

  • 教師に1日の最初と最後に自分と生徒たちの写真をデジタルカメラで撮影させ,その写真を提出した日数分の給料を支払うことで,教師の日常的な欠勤を防いだ

    • 結果,教師が常に学校にいることで,生徒の出席率も向上し,学力も向上したことをランダム比較対照で実証した.

→ テクノロジーが介入パッページとしてうまく機能した,筆者のこれまでの意見に対する判例かと思われたが,実際に現地に行き話を聞くと,研究者達はプログラムの全体像を無視していたことがわかった:

  • セヴァ・マンディールは調査の前から何年もかけて授業方法を改善し,日々学校へいくことの価値について関係者を説得していた

  • カメラ監視プログラムが実施されることには,教師達の意欲は上がり,指導も当初よりずっと効果的になっていた

  • つまり,カメラの監視は確かに効果をもたらしただろうが,NPOと住民たちによる何年もの努力によって教育水準がそもそも高くなっていたことがより主要な原因である

ビジネスを通じて,社会問題を解決するという考えへの批判

批判1:

  • ミシガン大学 経営学教授 C・K・プラハラード 「The Future at the Bottom of the Pyramid」

  • → 「利益を通じて貧困を撲滅する」というアイディア

  • ところが,プラハラードが挙げている9件のケーススタディは良くみれば,1つとして「利益を通じて貧困を撲滅する」ことはできていなかった.

    • 唯一貧困層の消費者への販売で利益を上げていた営利企業は,ヒンデュスタン・リーバ・リミテッド(HLL)

    • インドでは下痢が多くの子供を死に追いやっているが,手洗いで防げる場合は多い,という問題に,石鹸をBOPの消費者にも手が届くように販売することでアプローチ

    • ↑ そもそも手洗いの習慣がないため,2つの方法でアプローチ

      1. マーケティング会社が手がけたキャンペーン

      2. インド政府との官民パートナーシップ

    • 結果として,企業マーケティングの方がHLLの利益は多かったが,健康効果は税金で行われた官民マーケティングの方が大きかった

    • つまり,利益を重視するなら社会問題の解決は優先できなくなってしまうという事例

批判2:

  • 社会的企業 というブランディングで成功を収めている,トムズ・シューズ

    • 靴一足が売れるごとに,一足が「困っている人」寄付される

    • TOMSは財務諸表を公開していない

    • 創業者マイコスキーは,未公開株式投資ファンドに売った持ち株と自分への報酬で三億ドルを手にする可能性がある

    • 高すぎる靴をブランド好きに売り,幹部役員にたっぷり報酬を払うために,途上国の安価な労働力を食い物にして,収益の一部を事前目的に使っているというのが現実.→ それより安い靴を買って,同じ額をしっかりした非営利組織に寄付した方がよっぽど問題の解決に役に立つという理論

    • モラル・ライセンシングの問題もある

テクノロジーの十戒

ここまでの事例から抽出できる共通点:

  • 数値測定できる指標を重視しすぎる,そして,測定不可能な資質を無視する

測定への執着,執着が他のやり方を排除してしまうのが問題.

テクノロジーの十戒

  • 意義より測定 -- 数えられるものだけを評価せよ

  • 質より量 -- 何百万人もに影響を与えられることのみをせよ

  • 根本原因より究極目標 -- 成功を保証すべく,最終目標のみに焦点をしぼれ

  • 経路依存より目標主義 -- 歴史や概念は無視し,目標へとひと飛びに向かえ

  • 内的より外的 -- 他人が変わることを期待してはならない.代わりに,彼らの外的環境のみに注力せよ

  • 実証済みよりイノベーション -- 過去にすでに行われたことは決してしてはならない.最低限,新しくブランド化をせよ

  • 英知より知性 -- 地味な努力ではなく,賢さと想像力を最大化せよ.知性と才能を活用して尊大さや身勝手さ,未熟さ,階級主義を正当化せよ (階級主義: あらゆる種類の社会的階級に基づく乱用,屈辱,搾取,征服を指す)

  • 価値没頭より価値中立 -- 価値中立をよそおって,価値観や倫理を回避せよ

  • 集団主義より個人主義 -- 競争を効率的につなげよ.自己満足と腐敗のもととなる協力は回避せよ.公益のための妥協も含めた自己表現の阻害は抑圧と同じである

  • 責任より自由 -- 多く選択させろ.選択しに判断させるな.自由を抑えて責任を最速するのは先生に等しい

技術者だけでなく,社会に広く浸透した考えになりつつある.もちろん,指標やイノベーション,自由に反論するのは無意味だし,危険でさえある.しかし,何事においてもバランスが重要だ.

...

啓蒙思想は,無教養で地位の低い人民の↑に反映していた宗教支配や君主制に対抗するものだった.

  • 迷信や教義 → 科学と理性

  • 家柄や身分 → 能力主義

  • 独裁政権 → 民主主義

この啓蒙思想が人類を発展させた一方で,それによって世界でもっとも裕福,もっとも自由で幸福になった人々こそ,地球レベルでの環境問題にもっとも責任がある人々でもある.

  • アメリカ人は途上国の人々に比べて,35倍の天然資源を消費している.

  • 世界の金融問題はウォールストリートの過度な活動に結びつけられる

    • 繁栄,正義,自由,幸福,平和の指標における私たちの成功こそ,隣人達や私たち自身の未来をますます侵害してもいる

    • 何を間違えてしまったのだろうか?

    • 「啓蒙時代」の進歩的な思想を,テクノロジー至上主義と合体させたこと

人類はもっと永続的な人類の未来のためにも「啓蒙時代」「理性時代」の先につながる,もっと良い発展の物語が必要だ.

Note

Kevin Kelly の「テクニウム」を読んだときに,アーミッシュの話がでてきたが,テクノロジーの発展と人類の幸福について似たような話がでてきた.彼は,テクニウムはそれ自体が進歩/進化することを欲する性質がある的なことを書いて,その時は全肯定で読んでいたから,ちょっと読み直したい.

第2部

6. 人を増幅させる: 心,知性,意志の重要性

失敗事例 インドでテレセンターが,あらゆる問題への解決をもたらすものとしてもてはやされたが,実際にはほとんど成果をあげなかった.→ "画一的な介入の広範囲な普及" がだめなら,どうするのが,正しい取り組み方だろうか?

成功事例 デジタル・グリーン 1 とリキン・ガンジー

  • MITで航空工学を学んだ後にソフトウェアエンジニアとして働いていた,優秀な若者ガンジーは,テクノロジーを通じて,インドの社会問題を解決に取り組みたいと熱意を持って,筆者の元にやって来た.

  • 彼は,グリーン財団という農業指導を行っている小さなNPOで働いた後,そこでビデオ教材を作ることを提案する

    • これまでの画一的な介入プロジェクトとは違い,ガンジーは同じ方言でしゃべる地元の人を出演者として,教材を作成していった.

    • 既存の指導方法やポスターを使うものなどとも比較実験を行ったが,結果的に動画教材を使った農業指導は,典型的なものより,7倍も高い技術の実践率を達成した

    • しかも,コスト効率は10倍もよかった

それまでの動画教材を通じたアプローチ(インドの公共放送で流される番組)や,テレセンターを通じてて提供されていた農業コンテンツはほとんど活用されていなかったのに,デジタル・グリーンはなぜこれだけの成功を収めたのか.

筆者は,動画を上映してそこに人が集まるという,人と人の交流を増幅させた点,専門家の役割を専門家でない(= 地元の人々)が肩代わりできるようにしたことが,農家に強い印象を残すことに成功したと分析している

効果的なテクノロジーの使用法における3つの習慣

  1. 目標に合った,人的能力を特定するか構築すること

    • テクノロジーを使わなくても,グリーン財団は農家に関わり,彼らを支援する能力があった

    • 介入パッケージでプラスの効果をあげるには,増幅できるプラスの人的能力が必要

  2. 適切な人的能力を増幅させるために介入パッケージを活用すること

    • ガンジーは,グリーン財団がすでにやっている活動を増幅させるために,テクノロジーを活用した

    • 組織化されていあに社会的傾向の影響を増幅させることも可能

    • 例: Mペサ: ケニアで携帯電話を使った送金システムが,都市部から地方への現金の流れを増加させたが,これは都市部への出稼ぎ者たちが,故郷に仕送りをするという文化がすでにあったため

  3. 介入パッケージの無節操な普及は避けること

    • デジタル・グリーンは農家との関係を気づいている協力なパートナーなしでは機能しないため,パートナー組織が経験のない分野(子供の教育等)に手を広げない

    • テクノロジーを広めること自体を目的とすると,リソースの無駄遣いになり,逆効果になることも多い

    • 例: 十分にサポートできるスタッフがいない状態で,医療情報のアドバイスも始めたが,それが間違って運用されたとする.その間違いを防いだり回復することができる人員がおらず,オンラインのシステムだけが存在していたら,地元民はその医療情報のみならず,同じ媒体で実施されていた農業教材も信頼しなくなってしまう.

この3番目の原則を破ってしまうプロジェクトがとても多い

その後,デジタル・グリーンは30のパートナー組織を通じて,5千の村に広がり,エチオピアやガーナでも活動している. 20言語で作成された,3千本以上の動画を40万人以上の人が視聴した.

→ パートナー組織が強力であればあるほど,農家への影響も大きくなるという相関関係は明らかだった.
→ 大規模展開での成功はパートナー組織の存在と能力に完全に依存している

テクノロジーを活用する正しい方法を示している事例.

筆者が考える優れたパートナーの3つの資質:

  1. すぐれた意図 (心)

  2. 判断力 (知性)

  3. 自制心 (意志)

失敗事例

  • インド南部 アードラ・プラデーシュ州

  • 政府に汚職が蔓延していたため,全ての活動報告がオンラインで公開される「社会的監査」が導入された

  • 結果的には,一部では汚職が減り,一部では悪化した

    • コンピュータが作業を割り当てなかったと言い訳したり,監査するはずの側と役人が共謀して誰1人働いていないのに,全員が口裏を合わせて,虚偽の報告を作り,給料だけを受け取るなど

→ 結局現状を増幅しただけで,全体として見たときに解決したとはいえない


人間が第一

事例 TAF (テクノロジー・アクセス財団) 2 での筆者の指導

  • TAFはマイノリティのためにSTEM教育を提供する財団

  • 筆者は放課後の課題授業を担当

  • 最初はある程度自由にさせていたが,みんなすぐゲームに向かってしまい授業にならない

    • → ルールを厳格にさだめ,教室の環境を整えたことで授業内容に生徒は向かうようになった

    • 生徒の行儀の良さや,教師の規律を与える意志が教育の前提となる

    • 人的問題があれば,最高のテクノロジーも何の役にもたたない

教育長官 アーン・ダンカン:「テクノロジーは自宅にノートパソコンやiPhoneを持たない低所得層,マイノリティ,地方の生徒達に不利に働くのではなく,むしろハンデをなくして平等にする」 → 見当違い

  • もともと語彙が多い子供はWikipediaからもっと学ぶことができる

  • 行動に問題のある生徒は,よりビデオゲームに気を散らされる可能性が高い

1

Digital Green <https://www.digitalgreen.org/>

2

Technology Access Foundation <http://techaccess.org>

7. 新しい種類のアップグレード: テクノロジー開発の前に人間開発を

事例: ケルサ+

  • Hole in the Wall 大人向けにやってみたらどうなるか? →「ケルサ+」というプロジェクト

  • 自由にパソコンを使うことを許可された職員(警備員など)はプロジェクトを歓喜絶賛した

    • しかし,パソコンの用途はほとんどが,映画や音楽の検索程度だった

  • 1人の例外は,このプロジェクトに刺激されて,仕事外の時間でデータ入力の講座に通い,警備員をやめて事務職員に転職した

  • ピアノを持っていることと,ピアノを弾けることは全く違う

  • → 介入パッケージと,教育 (指導,訓練,アドバイス)は違う

    • モノの配布だけではなく,指導をできる能力ある人々の努力が欠かせない

  • テクノロジーの無料配布から始まったプロジェクトの多くが,結局は指導プログラムへと進化している

事例: アシェシ大学 3

  • ガーナ初のリベラル・アーツ大学

  • パトリック・アウアーが立ち上げ

  • 筆者はここで微分・積分の教師を一学期担当

  • 指導開始時の学生達の数学レベルは非常に低かったが,全員が驚異的な熱意とやる気で学期末までに全員が微積分を理解した

  • 卒業生達は世界のエリートの一員となる

再び,重要なのは 心(意図),知性(判断力),意志(自制心) である. そして,これらの発展を説明するために「内面的成長」という言葉を使っていく.

心,知性,意志の3つこそが,社会的変化を起こす核であり,それは宗教,文化,政治を超越した純粋に現実的な理由に基づくもので,個人だけではなく社会についても同様である.

内面的成長は,新しい概念ではなく,伝統的な美徳は全て三柱で説明できる.(e.g. 勇気,克己心,正義,慈悲心,慎重さ,謙虚さ)

GRITやResilienceといった最近人気の能力も,この3つを組み替えたものだ.

3

Ashesi University <http://www.ashesi.edu.gh>

集団の内面的成長

例: 公衆衛生

  • I-TECH (ワシントン大学国際医療研修教育センター) は創立10年で18万人以上の医療従事者に研修を行い,推定120万人の命を救うことに貢献した

  • I-TECHは「有能な医療従事者を育成し,しっかりと組織された全国規模の医療提供制度を構築する」活動の支援を行っている

    • I-TECHの様々な活動の任務を突き詰めれば,訓練と組織開発になる

    • これは国の医療システムの心,知性,意志を育てることにつながる

    • ディスカッションやケーススタディのような,基本的でアナログな再現しやすい指導方法を使って有能な教師が教えることには強力な効果がある.

I-TECHのカリキュラムで研修を受けた看護師の助言がきっかけで家庭で水を煮沸消毒するようになったために,何人の子供たちの健康状態が改善されたか,計測することはできない. それを認識することで,単なる費用対策効果の分析から,計測しにくい目標に関する判断へと行こうしていける.

"集団としての内面的成長は,個々人の内面的成長が集まって複雑な社会的要素と融合した結果生まれる"

成功事例: シャンティ・バヴァン

  • エイブラム・ジョージが設立

  • 低所得,程カーストのインド人家庭の子供が入れる全寮制の学校

  • 寄付金によって中流階級の学校のような設備と最上級の教育が受けられる

    • 入学時には誰1人読み書きできない

    • 入浴や歯磨き,トイレなど近代的な衛生習慣を身につけさせるところから始まる

    • 中学までに,シャンティ・バヴァンの生徒たちはインドの上流中産階級の質の高い教育を受けた家庭の子供と区別がつかなくなっている

    • 卒業生は全員いい大学に進学

学問,課外活動,人格と文化的財産を重視する優れた総合教育の劇的な効果を実証する希望の光. 一世代でシャンティ・バヴァンは生徒達を貧困から脱出させた.

  • ここで金銭的貧困ばかりに注目するのはよくない.確かにアシェシ大学やシャンティ・バヴァンの卒業生の成功は就職先に見て取れる.

  • しかし,見過ごされがちなのは,すぐれた教育が心,知性,意志にもたらすことのできるより深い変革である:

    • 願望に満ちた未来への展望

    • 自分自身に対する信念

    • 学ぶ能力

    • 好奇心に対する内面的やるき

    • 自分を超えた大義に貢献したいという気持ち

    • ...

  • こういった側面は,政策立案業界ではおおむね無視されている資質

ケニアの十代の少女たちに対して行った単純な実験によって,学校教育を受けた人ほど「運」よりも「努力」に対する評価を高く持つことが分かった.

1966 社会学者 ジェームズ・コールマン の調査:

  • アメリカの社会経済的階級が異なる子供たちの間に見られる主な違いは,運を信じるか,努力を信じるか.

  • より裕福で教育水準の高い親のもとに生まれた子供ほど努力を評価する傾向があった

"効果的な教育では「私にはできる!」ということを学べる機会が繰り返し訪れる"

  • 日本,中国,インドでは悪評高い丸暗記教育が重視されるが,アメリカの平均的な学生よりはるかに優秀である

  • 日本の教育制度は主に「聞く,勉強する,テストを受ける,合格する」というサイクルに基づいている

楽観的な意図,注意深い判断力,強い自制心をはぐくむ,すぐれた丸暗記教育の方が,教育の不在,質の悪い教育,あるいはうまく実施されていない野心的な教育プログラムよりはましだ.

もちろん,丸暗記教育が最高なわけではなく,1人1人の個性を育むものの方がよい.

例:

  • 生徒に様々な職業を知ってほしいと,外部から講師を招いても,生徒のテストの点数がよくなるわけではない.でも生徒が人生の目標を形作る一助になる

  • インドの公立学校の生徒達の希望は,政府関係の仕事に限定されている.それ以外に安定した職業を知らないから.

知性は満たすべき器ではなく,灯すべき薪である

—プルタルコス


  • こういった教育の持続可能性は,卒業生の寄付によって実現することができる.

  • 在校生に対する卒業生の割合は時間とともに増えていくため,初期の個人資産を使い切っても,寄付は増え続ける可能性がある

  • 実際に,シャンティ・バヴァンの卒業生達は,就職して数ヶ月で月給の一部を学校へ寄付している

8. 願望の階層: 内面的動機の進化

例: レジーナ・アギャレが立ち上げた"ソロンコ"

  • レジーナ・アギャレはアシェシ大学卒業生,筆者が教えていた微分・積分クラスでトップだった

  • ガーナの銀行でエンジニアとして成功していたが,ある日自ら退職し,「ソロンコ」を立ち上げ

  • 営利企業のソロンコ・ソリューションズと,NPOのソロンコ財団が合体した組織

    • 営利側の売り上げの80%を,ソロンコ財団の活動に注ぎ込んでいる

    • ソロンコ財団は,ガーナの若者にIT技術を教える組織

学生のとき,彼女は自分が安定した職に着くことしか考えていなかった.しかし,銀行で働く中で,自分と雇い主のためだけに働くことには満足できなくなり, 自分のような特権を得られなかった子供たちのために貢献したいと考えるようになった

→ 内面的成長を続けていくと,一種の 転換点 に達する = 社会的大義への純粋な貢献者となる点

より大きな内面的成長は,あらゆる良い社会的変化の制御可能な根本原因である

経済学では,人はインセンティブ(= 金)に反応するものであると捉えられる.=> 「合理的選択モデル」 = 誰もが,自分の紅葉を最大化するために自分本位に働く

しかし,経済的に成功した人が別のインセンティブを理由に,より給料の低い職に移ることがある

別のインセンティブ: 家族,自律,知的報酬,社会的影響,認められること,... つまり,富に対する欲求はある時点で満たされ,ほかの欲求が優先されるようになった例

願望の力

願望は人を動かす大きな力をもっている.

その役割は

  1. もっと良いものを目指すように人を促すこと

  2. 内面的動機であること

  3. ゆっくりと生まれ,長期にわたって続くこと

  4. 願望を追い求めることによる内面的成長

などがある.

  • パトリック・アウアーは,アシェシ大学を立ち上げる以前,アメリカの大学に留学し,その後マイクロソフトで働き非常に成功していた

  • しかし,人生にはもっと重要なことがあるのではないかと自問を始め,スワースモア大学で受けたリベラルアーツ教育に重要な意味があったと考えた

  • そして,マイクロソフトを退職し,バークレー経営大学院に通ってどうやって大学を立ち上げるかを考え,ガーナに戻って実際にアシェシ大学を立ち上げた


問い

  • 「人をより大きな社会的善行に向けて内面的に動機づけるのはなんだろう?」

  • マイクロソフトをやめてアシェシ大学を立ち上げた,パトリック・アウアーや,銀行をやめてソロンコを立ち上げたレジーナ・アギャレ,オラクルをやめてデジタルグリーンを立ち上げたリキン・ガンジーのような人物はどうすればできあがるのだろう?

発達心理学が答えられる.ここには,人間成熟のパターン,内面的成長のパターンがある.

マズロー的発展

  • 人が「複数に動機づけられ」,行動が「複数に決定される」というマズローの主張はあまり理解されていない

  • どのようなときでも,人の欲求はそれぞれが異なる度合いで満たされる

  • そして,どのような行動も複数の欲求に突き動かされている可能性がある

    • 例: 仕事をがんばるのは,それに伴う報酬が生理的欲求,安全への欲求,承認欲求を満たしてくれるから

    • さらに,仕事が自分にとって非常におもしろいのであれば,自己実現も満たされる.

    • 仕事の中身や報酬に,仕事の態度によって,要素の比重がことなってくる

広まっている誤解1 "自己実現を最上層にあるとみなす"という点

  • マズローは生涯を通じて,改装を組み直し続けた.

  • 自己実現だけでは十分ではなく,「自己超越」と呼ぶべきもうひとつの階層があることを示唆していた

    • = 他者のための善行や,無私と利他的行為に人を向かわせるもの

広まっている誤解2 "ハンガーストライキは,生理的欲求が他の動機を上まっていないため,階層がおかしい"

マズローの欲求の階層は,実際は2つに分けることができる.

  1. 外的な要因によるもの: 三日間水なしで過ごすよりは,三日間自己実現をしないで過ごす方を選ぶ

  2. 願望など内的な欲求,内発的動機: より高い欲求のために低い欲求を犠牲にすることができる

    • → 「願望の階層」と呼ぶ

ハンガーストライキなどの行為は2によって説明がつく.

生理的欲求から自己実現の欲求までは,利己性に基づいているが,自己超越的な願望によって, 自己への注力が,純粋に無私な他者への気遣いにとって代わられる.

→ "より大きなマズロー的発展により,人はもっと未来志向に,もっと他者中心に,もっと大きな集団としても他者中心になっていく"

例: 自己超越的な願望への転換

アウアーは,大学を設立するために,

  • 高収入な仕事,安定した生活

  • 自分の財産のかなりの額

を犠牲にしたが,彼は承認と自己実現の欲求をすでに満たし,そして満たせることに自身を持てたため, 願望の転換を実現した.

例: 願望の階層が低い状態

  • 奴隷制度の専門家で,NPO「フリー・ザ・スレイブス」の代表ケビン・ベイルスが聞いた話

  • あるインド人の夫婦が奴隷労働をさせられていたが,一族の夫妻を返済して自らの自由を買い戻せるだけの財産を相続した

  • 夫婦は自由になったが,毎日の食事や安全のために常に不安を感じるようになった

    • 結局,夫婦は元の所有主のところに行って,また奴隷農民にしてくれるように頼み,奴隷にもどった

= 自由があったのに,食料と安全の保証と引き換えに奴隷としての条件を自主的に受け入れた 生理的および,安全への欲求が脅威にさらされているときに,それらがどれ程強いものかを証明する恐ろしい例.


  • 個人は異なる階層から,異なる速度で登り始める

  • 最低限の生活が保証された状態でスタートする子供は,貧困にあえぐ,日々の生活が精一杯な家庭に生まれた子供よりも明らかに有利なスタート地点にいる

    • ある階層の願望がすでに存在する状態で育てられた子供は,より高い願望を抱くことができる

...

  • 社会的変化についてにの今の主流な考え方にかけているのは,内面的な人の進歩.

  • 世界にはより良い自分自身になれる人々がもっと必要だ

  • だが,内面的な向上の枠組みなくして,そのための基盤は得られない.

内面的な向上の枠組み とは? → 9, 10章

  1. 世界中のあらゆる人の富が突然,累進的に増える,

  2. 世界中のあらゆる人の心,知性,意志を急激に育つ

という2つの場合を想定したとき,前者はすぐに元の状態に戻るが,後者は世界規模の幸福が持続する可能性が高い. 内的成長こそが重要.

9. 「国民総英知」: 社会的発展と集団の内面的成長

  • 「発展は個人の内面的に資質にかかっている」という主張は,貧困や抑圧の犠牲者に対して,「内面的成長がかけているのはおまえのせいだ」と言ってるようにも捉えられかねない

  • しかし,個人からみた外的状況は社会の集団的行動として人の制御下にある

  • 個人の内的成長は,外的な要因や社会構造に大きく影響される.

→ 「社会の内的発展」が必要

例: インドのタクシードライバーである ナラシムハが自らの力で貧困から脱している

  • 人間の中には,適切な状況において,単なる生存と安全以上のものを求めさせる働きをする何かが存在する.

  • 集団の価値観はゆっくりではあっても確実に変化する

→ イングルハートの 「世界価値観調査」

  • 1980年代初頭から,国家的価値の大規模な調査を97ヶ国40万人を対象に行ってきた

  • 人の価値観,信条,願望について質問

イングルハートらが発見したパターン:

  • 価値観の多様性は2つの大きな次元で要約できる: 「伝統的 vs. 世俗的合理的」と「生存 vs. 自己表現」

  • 伝統的価値観は以下を重視: 宗教性,国家威信,権威に対する敬意,服従,結婚.世俗的合理的価値観は全ての逆を重視する

  • 生存価値観は自由よりも安全を優先し,同性愛の拒絶,政治活動の自制,外部の人間に対する不信感,低い幸福感を伴う.自己表現価値観はこれら全ての逆を示唆する.

  • 人の優先順位は,自らの存在に対する安心感が増すに連れ,伝統的価値観から世俗的合理的価値観へと移行していく.存在に対する安心感が最大限に増幅するのは農業社会から産業社会へと移行した際に起こる

  • 人の優先順位は,個人の行為主体性が増加するにつれ,存在価値観から自己表現価値観へと移行していく.行為主体性が最大現に増加するのは,産業社会から知識社会へと移行した際に起こる.従って,存在価値観から自己表現価値観への移行もこの時期に起こる

つまり,個人の願望の変化は国の近代化という目に見える側面に関連して起こる. また,これらの変化はマズローの階層と相関関係にある

事例: インドのIT分野での成長.

  • リチャード・フロリダの「クリエイティブ・クラス」の調査

  • 国家の変化と個人の願望の変化は表裏一体である

  • しかし,社会的大義が人の価値観や願望を無視して,外部から「賢明」と言われる成果を押し付けようとする試みに満ち溢れている

...

  • しかし人類の歴史を長い目でみれば,暴力の度合いは減少傾向にあり,また自己超越的な行動は増加傾向にある

10. 変化を育てる: 社会的大義の枠組みとしてのメンターシップ

事例: ベネズエラのオーケストラ集団

  • ホセ・アントニオ・アブレウが1975年に数人の仲間を集めて若者のオーケストラを立ち上げる

  • 次第にグループは大きくなり,支部が作られ,40万人の生徒が日々練習している

  • 今ではベネズエラ出身の神童が世界トップのオーケストラを率いている

この組織は「The System」と名付けられたがこれは社会運動である.

  • 音楽がない国があったとき,そこにどのような介入パッケージを用いても音楽の楽園に変えられるとは思わない

  • 社会的変化は壊れた機会を直すようなものではなく,オーケストラを育てるようなもの

  • 近道など存在しない

→ では社会的大義に貢献するにはどうすればいいのか


事例: NGO自助グループ「プラダン」のメンターシップ(助言)

  • 助言者と被助言者の信頼構築: 助言者は自分の世界観を押し付けないように注意し,被助言者は自らの願望を守りながら助言者の思慮を勘ぐらないようにしなければいけない

  • プラダンは,村の活動を自分たちがやるのは極力避け,自力で目標を達成できる方法を促進している

  • → メンターシップとは知識,技術,人脈,その他個人やコミュニティレベルの英知の育成に注力するもの

  • プラダンがコミュニティに提供する一番の贈り物は,スタッフの時間と労働,そして専門知識.金やインフラ,テクノロジーではない.

  • さらにメンターシップは助言者にとっても,成長し力を得られる行為である

人は正しい行為をおこなうことで正しい人間となり,節度ある行為をおこなうことで節度ある人間になり,勇敢な行動をすることで勇敢な人間になる」

—アリストテレス

  • メンターシップを通じて,人はより寛大な,自己超越的な人間になれる

  • メンターシップは,介入パッケージの「展開」「大規模化」とは大きく異なる

  • あくまで,すぐれたメンターシップを行うことに注意し,コーチングやマネージングにならないようにしなければいけない

  • さらに,プラダンは影響の多層構造を備えている: スタッフが対象地域のコミュニティで内面的成長をはぐくみ,経営陣はスタッフの内面的成長をはぐくみ,指導者は自らの内面的成長をはぐくむ

...

  • 介入パッケージは比較的簡単で,個人と集団の心,知性,意志を育てるのは難しい

  • 私たちに必要なのは,もっと多くの人が長く辛い道を選ぶことである

結論

  • 哲学者ピーター・シンガーの思考実験: あなたが救える命

    • 目の前で溺れている子供がいれば,時間や金のことなど考えずに救うが,世界のどこかで救える子供のために1ドル使うことにはためらう.

  • なぜか?: 一人の子供を救うために一ドルなら喜んで払うが,救える限りの子供を継続的に救い続けるために時間と費用を捻出する覚悟は持っていないから

  • 本書の要旨は,社会的大義に「帰結主義的徳倫理」を適用すること

徳とは「圧倒的多数の善を体系的に生む性格特性」である

—Julia Driver

→ より良い世界につながる可能性が高いというただひとつの理由のために,人の特定の傾向をはぐくむということ

  • 義務主義(カント)や功利主義(ベンサム, ミル)とは異なり,徳倫理は何が正しいかを知っていることと,正しい行為を実行することは違う.と認識している.そして,倫理的な行動を起こす能力をもっと高める努力を重視している

本書の中核となるテーマ:

  • 社会的状況を解決するべき問題として見るよりも,育成するべき人や制度として見るべきである

(本のメモここまで)

追加で考察できそうなところ

→ 事例発見: Freakonomics Radio, When Helping Hurts, Jul 13 2017 <http://freakonomics.com/podcast/when-helping-hurts/>

ただ,この実験からの学びは,その判別を短期間で行うのは非常に難しいということ.特に,大人になってからコンタクトされた人々の多くが,メンタリングプログラムはとても良かったと,ポジティブな記憶を示したらしい.でも,なぜかそれは傾向としては負の影響を及ぼしたことになる.