自然主義入門

Author

gentam

Date
2017-10-07
Category

booknote

Tag

philosophy, naturalism

Updated

2018-12-27

図書館の新着図書コーナーに置いてあって,表紙がなんとなく綺麗だったのと, 「自然主義」という言葉になんとなく惹かれたので,なんとなく手に取った本.

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Contents


Title

自然主義入門 - 知識・道徳・人間本性をめぐる現代哲学ツアー

Author

植原 亮

Published

2017-07-15

ISBN

978-4-326-15448-7

URL

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b297669.html

Read

2017-10-02

タイトルの通り,哲学における自然主義という考え方を,実際に行われてきた議論を踏ま えながら解説した本だった.

そもそも自然主義というのは,哲学を自然科学的な手法で行おうという流れのことを指す .哲学をする人間も自然の中に存在しながら,世界を説明しようと試みているのだから, その手段としてこれまで最も成功を収めてきた科学的手法を用いるのが妥当ではないか. という,妥当な意見に基づいている.

具体的な議論として,人間が持つ道徳観や言語,論理的な思考といった性質に対して,そ れを生まれながらにして持っているとする生得説と,経験によってのみ形成されるとする 経験主義が取り上げられる. これを,抽象的でいわゆる「哲学的」な話で終わらせるのではなく,心理学,医学的な実 験やデータを元にして議論していく.

「どちらの主張にも一長一短あるのだから,一方だけが正しいという見方がそもそも違う のでは?」ともやもやしながら読んでいくと,二重プロセス理論によって両方の主張を調 和できるようになってすっきりする.これは,素早く直感的で感情的な思考(System 1)と ,遅く慎重で論理的な思考(System 2) の2つが存在しているという,Daniel Kahneman の "Thinking, Fast and Slow" で有名になった話.

主題からそれるが,思考実験や比喩が考える道具としていかに有効かということをこの本 全体を通して感じた.概念だけの抽象的な説明を読んでも,「なるほど!」という感覚に は繋がりにくいが,具体的な思考実験が添えられていると,その中の視点を借りることで 新規性を理解することができる. この本には,そういった思考実験や比喩が多く出てくるので面白かった.例えば,地球を 探査している異星人の科学者の視点を想定することで,理解を邪魔する認識のフレーム を取っ払うことができて,議論の本質が鮮明に浮かび上がったりする.

"目の前で溺れている子供がいれば,時間や金のことなど考えずに救うが,世界のどこか で救える子供のために1ドル使うことにはためらう" という道徳心の特性を炙り出すよう な Peter Singer の思考実験はテクノロジーは貧困を救わない でも言及されていた

本の最後には,終わらない哲学の議論に関して,「人間がどのような傾向の問題に対して 異なる主張を持ち,対立してしまうのか」というように,メタな部分を科学的に解明する ことで解決に導くことができるかもしれない,みたいなことが述べられていて,なるほど と思った.

目次

第1章 自然主義の輪郭

  1. ノイラートの船

  2. 異星人の科学者

  3. 心をめぐるふたつの比喩

  4. 合理論的生得説と自然主義の課題

第2章 道徳と言語のネイティヴィズム

  1. 道徳判断と道徳的価値観

  2. 道徳生得説の課題・動機・方向

  3. 言語生得説

  4. 道徳文法学派

第3章 味わう道徳、学ぶ道徳

  1. 感情の不可欠性

  2. ハイトの道徳基盤理論 - 感情主義的な道徳生得説

  3. 道徳の経験主義へ

  4. 道徳から心へ

第4章 生得的な心は科学する

  1. 心の発達と生得説

  2. カントと生得説と科学の起源

  3. 帰納・生得説・本質主義

  4. モジュール集合体仮説と進化心理学

第5章 経験主義の逆襲

  1. 生得説批判 - 進化とモジュール

  2. 生得説批判 - 発達心理学の知見を飼い馴らす

  3. 抽象概念を学ぶ - 数と論理

  4. 言語生得説に挑む

第6章 ふたつの心とサイボーグ

  1. 二重プロセス理論

  2. 調和の試み

  3. 理性の由来

  4. 生まれながらのサイボーグ

第7章 善き生・工学・道徳的進歩

  1. 生物‐文化的人工物としての道徳

  2. 自律性と道徳の制御

  3. 規範の探究

  4. 人間は道徳的に進歩するか

第8章 疑いとア・プリオリ

  1. 懐疑論からの挑戦

  2. 懐疑論に部分的に応答する

  3. 懐疑論の土俵にあがることを拒否する試み

  4. 若干の補足と今後の課題

第9章 自然化する哲学 - 存在と方法

  1. 存在論的自然主義

  2. 方法論的自然主義

  3. あるメタ哲学的な展望